こんにちは。
施設ケアマネや介護職の方への情報発信をしているカメフクです。
職場の雰囲気は、悪くない。
みんな優しいし、休憩室では笑い声もある。
なのに——
「これ、おかしいんじゃないかな」と思ったことを、言えないまま持ち帰っている。
そんなことは、ありませんか。
不思議なもので、人間関係が悪いから言えない、とは限らないのです。
そして私が現場で感じてきたのは、「仲がいいから言えない」ということが、けっこう起きているということです。
この記事では、なぜそれが起きるのかを整理したうえで、
言いやすい場を、自分からつくっていく方法をお伝えします。
この記事でわかること
- 「仲がいい職場」ほど、言いにくくなることがある理由
- 言いやすさが失われていく、現場でよくある3つの場面
- 言いやすい場をつくるために、今日からできる3つのこと
- 変えられることと、変えられないことの分け方
- やれることをやっても変わらないときの、環境を変えるという選択
「うちは仲がいいから大丈夫」が、いちばん見落とされやすい
仲が良いほど、波風を立てたくなくなる
考えてみると、当たり前の話なんです。
関係が良ければ良いほど、それを壊したくないという気持ちも働きます。
- 「こんなことを言うと、角が立つかもしれない」
- 「よくしてもらっているのに、否定するようなことは言いにくい」
- 「みんなうまくやっているんだから、わざわざ蒸し返さなくても」
どれも、悪意ではありません。むしろ、相手を思う気持ちから出ています。
でも結果として、言うべきことが言われないまま、日々が過ぎていきます。
危険が減っているのか、報告が減っているのか
それがいちばん分かりやすく出るのが、ヒヤリハットやインシデントの報告だと思います。
「うちの職場はヒヤリハットがあまり出ないんです」
そう聞いたとき、ふたつの可能性があります。
- 本当に危険な場面が少ない
- 危険はあるけれど、報告されていない
私が見てきた範囲では、後者であることが少なくありませんでした。
しかも報告が出てこない理由は、「隠したいから」だけではありません。
「これくらい、わざわざ出すほどでもないかな」
この遠慮が、私の実感ではかなりの部分を占めています。
仲のいい職場ほど、この遠慮が働きます。
「言いやすさ」は、仲の良さとは別のもの
こうした状態を説明する言葉に、心理的安全性というものがあります。
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が、1999年の研究で示した考え方です。
言葉だけ聞くと、なんだか難しそうですし、
「みんな仲良く、優しい職場のこと」だと思われがちです。
でも、中身はもっとシンプルで、こういうことです。
言いにくいことを言っても、責められたり、評価を下げられたりしない。
そう思える状態。
つまり、仲の良さとは別のものなんですね。
- 仲がいい=一緒にいて居心地がいい
- 言いやすい=居心地を少し悪くすることを言っても、大丈夫
この2つは、重なることもありますが、別々に存在します。
これは、現場の実感だけの話ではありません
ここまで読んで「そうは言っても、感覚の話でしょう」と思われたかもしれません。
ところが、エドモンドソン教授自身が、論文の中でこう整理しています。
- 心理的安全性は、みんなが親しい友人であるような、居心地のいい環境を意味しない
- 集団としてのまとまりの強さ(結束)とは、別のものである
- むしろ結束が強いと、異論を唱えたり、人の意見に異を唱えたりする意欲が下がることがある
- 命がかかる場(病院など)では、ミスの報告がためらわれることが、以前から繰り返し指摘されている
3つ目が、この記事でお伝えしたかったことそのものなんですね。
そして4つ目は、さきほどのヒヤリハットの話とつながります。
報告が出てこないのは、この職場が特別だからではない、ということです。
「仲がいいから言えない」は、介護の現場だけで起きている不思議な話ではありません。
組織の研究の中で、ずっと前から指摘されてきたことです。
出典:Amy C. Edmondson『Managing the risk of learning: Psychological safety in work teams』(2002)
ハーバード・ビジネス・スクールが公開しているPDF(英語)
だから「うちは仲がいいから大丈夫」は、答えになっていません。
ここまで読んで「うちは仲も良くない」と思った方へ
念のため、書いておきます。
仲が良くない職場のほうが問題だ、と思われるかもしれません。
でも実は、気づきにくいのは「仲がいい職場」のほうです。
雰囲気が悪ければ、「これは何とかしないと」と誰もが思います。
一方、仲がいいと、「うちは大丈夫」で止まってしまう。
問題があることにさえ、気づかないまま何年も過ぎていきます。
どちらの職場にいる方にも、ここから先は同じように読んでいただけます。
言いやすさが失われていく、3つの場面
大きな事件があって、急に言えなくなるわけではありません。
小さな場面が積み重なって、少しずつ口が重くなっていきます。
場面①「それ、前から言ってるんだけど」
会議で、誰かが提案をする。
すると、こんな言葉が返ってくることがあります。
「それ、前にも出たんだけどね」
「うちでは無理だと思うよ」
言った側に、悪気はありません。事実を伝えているだけです。
でも受け取った側の中には、別のことが記録されます。
言っても、変わらない。
一度この学習が起きると、次からその人は黙ります。
そして黙っていることは、外からは「特に意見がない人」に見えてしまう。
同じ提案が二度出てくるのは、悪いことではありません。
「前も出てたよね。もう一度考えてみようか」——この一言があるだけで、場は変わります。
場面② 忙しさが、確認を「手間」に変える
介護の現場は、いつも時間に追われています。
そんなときに「すみません、これ確認したいんですが」と声をかけられると、
つい、こんな反応が出ます。
- 「今じゃないとダメ?」
- 「それ、さっき言わなかったっけ」
- (返事をせず、手を動かし続ける)
これも、悪意ではありません。単純に、余裕がないだけです。
ただ、覚えておいてほしいことがあります。
忙しいときに返した一言は、相手の中で長く残ります。
こちらは30秒で忘れますが、言われた側は何ヶ月も覚えていることがあります。
そして皮肉なことに、忙しいときこそ、確認が必要な場面なんですよね。
余裕がないときは、確認や情報共有がおろそかになりやすい。
いちばん必要なときに、いちばん省かれやすい。
それが確認なんだと思います。
場面③ 結論だけを、投げ合っている
これは、意見の食い違いが「対立」に見えてしまう場面の話です。
たとえば、誰かからこう言われたとします。
「その方は、歩かせないでください」
これだけだと、命令にしか聞こえません。
言われた側は、納得できないまま従うか、黙って反発するかになります。
ところが、こう言われたらどうでしょう。
「転倒して骨折すると、そこから寝たきりになる方を何人も見てきたので、心配なんです」
同じ主張なのに、話し合えるようになります。
そしてこれは、こちら側も同じです。
「歩いてもらいたいんです」だけでは、こだわりや理想論に聞こえます。
「この3週間で、立ち上がるときに手をつく回数が増えています。今のうちに動く機会を残したいんです」
こう言えれば、話が噛み合います。
すれ違いは、結論だけを投げ合っているときに起きます。
根拠が添えられると、対立が相談に変わります。
ここで大事になるのが、記録です。
「立ち上がるときに手をつく回数が増えた」は、記録がなければ言えません。
日々書いているものが、そのまま話し合うための材料になります。
言いやすい場をつくるためにできる3つのこと
ここからは、自分から場を変えていく話です。
役職がなくても、経験が浅くても、できることがあります。
なお、さきほどの「根拠を添える」は、そのまま自分が言いにくいことを言うときのコツにもなります。
「おかしいと思います」だけでは言いにくくても、
「こういうことがあったので、気になっています」なら、ずっと言いやすいはずです。
① 相手を尊重する ─ 職種も経験年数も関係なく
まず土台になるのが、これです。
介護の現場には、いろいろな立場の人がいます。
職種が違えば、見ているものも、大事にしているものも違います。
経験年数にも幅があります。
ただ、経験年数は「知っていることの量」であって、人としての上下ではありません。
ここを混同すると、場はすぐに硬くなります。
そして、ひとつ付け加えたいことがあります。
入ったばかりの人の「これ、変じゃないですか」が、いちばん正しいことがあります。
慣れていないからこそ、見えるものがあるんですね。
私たちは慣れると、おかしなことにも慣れてしまいます。
だから、そういう声が出てきたときは、
「それ、なんで気になったの?」と聞いてみてください。
否定も肯定もせずに、理由だけ聞く。これだけで十分です。
② 自分も尊重する ─ 我慢は、長続きしません
「相手を尊重しましょう」と言うと、
「自分が我慢すればいい」と受け取ってしまう方がいます。
でも、それは違います。
我慢で保った関係は、続かないことがあります。
その場は丸く収まっても、内側には少しずつ何かが溜まっていきます。
そして、ある日いきなり退職を申し出る。それまで見せなかった強い言い方をする。
周りは「急にどうしたんだろう」と言いますが、急ではないんですよね。
「私はこう思います」と伝えることは、わがままではありません。
相手の考えを聞いたうえで、自分の考えも置く。
どちらかが引っ込む必要はないんです。
自分をすり減らしながらでは、人を大切にし続けるのは難しいと思います。
③ 学ぶ ─ 知識がないと、尊重が「遠慮」に化ける
3つ目が、いちばん見落とされやすいところだと思います。
尊重しようという気持ちだけでは、足りないんです。
知識がないと、相手の言うことが正しいかどうか、判断できません。
判断できなければ、全部受け入れるしかない。
それは尊重ではなく、ただ黙っているだけです。
- 根拠を持って話せると、相手の意見も落ち着いて聞ける
- 根拠がないと、強く言われたほうに流されてしまう
だから、学ぶことは、対等に話すための準備なんですね。
私が社会福祉士を取ろうと思った理由のひとつも、ここにありました。
現場のことは分かっているつもりでも、
多職種の人が何を見て話しているのかが、分からなかったんです。
社会福祉士は働きながら通信で取れる?動機から合格・取得後まで【体験記まとめ・全4回】
資格でなくてもかまいません。
研修でも、本でも、先輩に聞くことでも、学びは学びです。
そしてこれは、新人だけの話ではありません。中堅も、指導する側も同じです。
変えられることと、変えられないこと
ここまで読んで、「そうは言っても」と思われた方もいると思います。
そのとおりです。職場には、自分では変えられないことがたくさんあります。
ただ、よく見ていくと——
同じ場面の中に、変えられない側と、変えられる側が両方あります。
| 変えられないこと | 変えられること |
|---|---|
| 上司や同僚の考え方 | その人への伝え方 |
| 人員の配置・法人の方針 | 限られた人数の中での動き方 |
| 昔からの慣習があること | 「なぜですか」と聞くこと |
| 提案が通るかどうか | 提案を出すかどうか |
| 他の職員が新人にどう接するか | 自分が新人にどう接するか |
どの行も、左は相手のこと、右は自分のことです。
同じ場面でも、自分ごととして見直すと、できることが残っているんですね。
大切なのは、この2つを混ぜないことです。
混ざると、人はだいたい両極端のどちらかに落ちます。
- 全部を自分のせいにする(自責)→ 抱えきれなくなって、消耗していきます
- 全部を誰かのせいにする(他責)→ 自分にできることまで、手放してしまいます
一見、正反対に見えますよね。
でも「結局、動けなくなる」という点では同じなんです。
職場全体をすぐには変えられません。
でも、自分の周りの数メートルは、今日から変えられます。
そして環境というのは、そういう小さな範囲が集まってできています。
それでも変わらないなら、環境を変える選択もあります
最後に、正直なことを書いておきます。
やれることをやっても、動かない職場はあります。
何年も同じことを言い続けて、それでも何も変わらないなら、
それはあなたの努力が足りないからではありません。
そういうときは、環境そのものを変える選択もあります。
これは、逃げではありません。
同じ人でも、場所が変われば力を発揮できることは、本当によくあります。
合う・合わないは、確かにあるんですよね。
私自身も一度、外の様子を見てみたことがあります。
結果として今の場所に残ることを選びましたが、見たこと自体に意味がありました。
「ここしかない」と思っているのと、「選んでここにいる」のとでは、
同じ職場でも、働き方がずいぶん変わります。
施設ケアマネが転職エージェントに登録してみた|やりとり・身バレ対策・結局残った理由
まとめ
- 言いやすさは、仲の良さとは別のもの。仲がいい職場ほど、遠慮で口が重くなることがある
- ヒヤリハットが出ない職場は、危険がないのではなく、報告されていない可能性がある
- 「それ、前から言ってるんだけど」は、相手に「言っても変わらない」を学習させてしまう
- 忙しいときに返した一言は、相手の中に長く残る
- 結論だけを投げ合うとぶつかる。根拠を添えると、対立が相談に変わる
- 相手を尊重する。そして自分も尊重する。我慢で保った関係は続かない
- 知識がないと、尊重が「遠慮」に化ける。学ぶことは、対等に話すための準備
- 変えられないことと、変えられることを分ける。自責も他責も、動けなくなる点では同じ
- やれることをやっても動かないなら、環境を変える選択もある
職場の空気は、誰か特別な人がつくっているわけではありません。
そこにいる一人ひとりが、少しずつ持ち寄ってできています。
だからあなたが今日、誰かに返した一言も、確実にその一部になっています。
大きなことをしなくて大丈夫です。
「それ、なんで気になったの?」と聞いてみるところから、始めてみませんか。
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